はじめに
【第2回】では、諸事情から新築タワーマンションを急遽賃貸に出し、約4年半にわたって大家さんとして運用したエピソードをお届けしました。

法人契約で大手企業の役員さんに借りていただき、順調だった賃貸運用。しかし、4年半が経過した頃に突然の退去連絡が入ります。
空室になった部屋を前に、私が下した決断は「売却」でした。今回は、その後に待ち受けていた不動産会社との駆け引きや、契約当日の様子など、売却活動の一部始終をお話しします。
このシリーズの記事
- 第1回 不況の時代に購入した2軒目のマンション
- 第2回 キャンセル寸前から始まった賃貸経営
- 第3回 保有5年の売却で見えた、本当の収支(この記事)
1. 賃貸中の査定と、モデルルームでの助言
実は、入居者の方が退去される前(賃貸開始から4年目頃)、そろそろ出口戦略としての売却を意識し始め、一度売却の見積もり査定を受けたことがありました。
そこで知ったのは、「賃貸中の物件(オーナーチェンジ物件)は、投資利回りで計算されるため安くなりやすい」という点です。 当時の我が家のケースでいうと、分譲マンションであっても投資利回り6%程度で見積もられるため、
月17万円 × 12ヶ月 ÷ 利回り6% = 約3,400万円程度
という計算になります。もちろん分譲タワマンなのでこれより高値になることもありますが、賃貸中は買い手が「内覧(部屋の中を見る)」ができないため、どうしても低めの金額になりがちとのこと。現状でも買値と同等では売れそうでしたが、仲介手数料などを考えると、賃貸で得た利益を足してもトータルで大幅なプラスにはならないことが分かり、この時は「焦って売る必要もないか」と静観することにしました。
その後、定年退職後の住まいを意識し始めたこともあり、いくつかの新築マンションのモデルルームを見学しに行った時のことです。営業担当者に「今タワマンを2軒持っていて、1軒を賃貸に出して4年になる」という話をすると、プロの視点からこんなアドバイスをもらいました。
「退去してもらって空室にしてから売った方が高く売れますよ。あと半年ほどで保有期間が5年を過ぎるなら、税率が下がるのを待ってから売却した方がいいと思います」
さらに、その場でレインズ(不動産流通標準情報システム)の画面を見せてくれたのです。そこには、私と同じ間取りの高層階が、4,000万円台半ばで実際に取引されている履歴が載っていました。「我が家も空室にすれば、この価格帯で売れるかもしれない」――そう思った直後、偶然にも4年半での退去が決まったのです。
2. 3社による査定と、不動産会社選び
退去後、久しぶりに部屋を訪問し、ルームクリーニングを終えた綺麗な状態を確認しました。
ここから本格的な売却活動のスタートです。今回は、3社に査定を依頼したのですが、現地を見に来た仲介業者の担当者さんからこう言われました。
「本当にここに4年半も人が住んでいたんですか。普通なら黒ずみやすい『冷蔵庫置き場の裏の壁紙』にも、跡がほとんど残っていませんよ。これなら壁紙の張り替えなどのリフォームは不要で、このままの状態で十分高く売れると思います」
法人契約で借りてくださっていた役員さんが、大阪本社所属で東京勤務時の社宅として使っていたこと、そして海外出張が非常に多かったというお話は本当だったのだと、部屋の綺麗さを見て改めて実感しました。おかげで、本来なら数万〜数十万円は覚悟しなければならないリフォーム費用が不要になり、良いスタートを切ることができました。
今回は、以下の3社に査定を依頼しました。
- A社(新築時の販売法人): 当該マンションの中古売買実績がダントツで豊富。ただ、最初に対応してくれた担当者は、やや上から目線の物言いが多く、私にとっては少し苦手なタイプでした。
- B社・C社: 賃貸運用中や、これまでのやり取りで一番感じの良かった会社。
査定価格や仲介手数料の条件(リピート割引など)はどこも横並びでした。「人気マンションだし、どこに頼んでも結果は同じだろう」と考えた私は、何より担当者の相性を重視し、A社ではなくB社と専任媒介契約を結ぶことにしました。
ところがここで一つ、ちょっとした誤算が。信頼して選んだB社の担当者さんが、我が家の自宅の最寄り駅の支店へ異動になってしまったのです。「大丈夫ですか?」と聞くと「問題ないです」とのこと。むしろ自宅の近くにいてくれる安心感もあり、そのままお任せすることにしました。
売り出し価格は、モデルルームで目にした実績を参考に、4,000万円台半ばに設定しました。
3. B社での3ヶ月間と、媒介契約の満了
B社の担当者さんは、本当に一生懸命やってくれたと思います。我が家のマンション単独の折り込みチラシを作ってくれるなど、予算を引っ張って頑張ってくれました。
内覧の希望も毎週末のようにたくさん入り、その度に担当者さんは現地へ駆けつけてくれました。しかし、人気物件ゆえに届くのは値引き要請ばかり。 「怒らないでくださいね。一応申し込みが入ったのでお伝えするのですが、4,000万円ちょうどで、というお話です」といった具合で、なかなか希望価格での成約に至りません。
結局、3ヶ月が経過しても売れず、媒介契約期間が満了してしまいました。「地元の販売力に強い会社に変えようか」と悩んでいたその時、思いがけないことが起こります。
B社との契約が切れて完全にフリー(どことも契約していない状態)になっていたタイミングで、かつて断ったA社(実績No.1の会社)から、私の携帯に直接電話がかかってきたのです。
「いま弊社の顧客様で内覧を強く希望されている方がいらっしゃいます。B社様に連絡したところ、契約が切れていると伺ったのですが、現在はどちらの会社様と契約されていますか?」
私が「これからC社と契約する予定です。以前のA社の担当者さんとは少し相性が合わなかったので」と正直に伝えると、電話口の担当者さんはこう言いました。
「ああ、あの担当者ですか。彼はすでに異動になりまして、今はもうおりません。今回は私が担当させていただきます」
せっかくの内覧のチャンスだったので、私は「この1件の内覧に限る」という条件で、A社に案内を許可しました。
4. 実績No.1のA社との契約と、1ヶ月ちょっとでの成約
結局、その内覧自体は成約には至りませんでした。 しかし、その日の夜20時頃、私が鍵を返してもらいにA社の支店へ向かうと、担当者だけでなく支店長さんまでもが揃って待っていました。
今回の案内が不調に終わったことへのお詫びと、「ぜひ、うちの店舗で正式に扱わせてほしい」という申し出を受けました。さらに、他社にはない条件として、仲介手数料の割引まで提案されたのです。
私は一度持ち帰り、契約予定だったC社にも状況を正直に説明しました。C社も手数料を頑張ってくれましたが、地域No.1の実績とA社の割引条件には届かず、最終的にA社に売却をお願いすることに決めました。
さすがは、そのマンションの売買履歴を一番持っている会社です。 A社で売り出しを再開すると、すぐに質の高い内覧が何件か入り、1ヶ月ちょっとで売却が決定しました。
価格は、端数を少し値引きする形(レインズの実績でもよくある一般的な着地)でしたが、B社での3ヶ月を経験していた私にとっては、十分納得できる結末でした。
5. 契約当日の現金授受と、セブン銀行での入金
売却の手続き自体はスムーズでしたが、平日の夜に行われた契約当日の出来事は、今でもよく覚えています。
① 手付金は封筒に入った現金
買主様との書類のやり取りは事前に大半が済んでおり、私は夜に店舗へ行って、最終的な書類への記入とサイン、押印を済ませました。 すると、担当者さんが「では、こちらが手付金です」と言って、封筒から現金の束を取り出し、目の前で数え始めたのです。
銀行振込が主流だと思っていたので、「今どき現金なのか」と少し驚きました。時刻はすっかり夜です。この金額を持ったまま夜道を帰るのも気が引けたので、領収書と引き換えに現金の入った封筒を受け取ったあと、契約が終わるとすぐに近くのセブンイレブンへ直行。ATMで50万円ずつ、何度かに分けて入金しました。
なお、後日の残金精算と鍵の引き渡しは、マンション最寄り駅の銀行で行われ、その場での振込確認で無事に完了しました。ちなみに、購入してくださったのは海外から来られた大学の先生でした。タワマン人気が海外にまで広がっていることを、肌で実感した瞬間でした。
② 手付金は現在でも現金が一般的
余談ですが、この物件の数年後に手がけた2回目のマンション売却でも、同じように手付金は現金で手渡されました。1回目の経験があったので「まさか今回も現金ではないですよね」と担当者に聞いてみたのですが、平日夜間や週末の契約になると、今でも現金でのやり取りになるのが普通のようです。調べてみても、不動産の契約における手付金は、今でも現金で授受されるのが一般的とのことでした。
後から考えると、受け取るだけの私はまだ楽な方だったのかもしれません。買主様は契約前にご自身で銀行から手付金分の現金を引き出し、自宅で保管した上で契約の場に持参されていたはずです。鞄に入る程度の金額とはいえ、その重みは実際の重さ以上だったのではないかと想像します。
6. 【売却と税金】5年保有の壁と、税務署でのやり取り
不動産を売却する際、切っても切り離せないのが「税金(譲渡所得税)」の話です。今回の売却では、事前のシミュレーションと過去の処理、税務署でのやり取りが大きく関係してきました。
① 「5年超」を待って正解。税率がほぼ半分に
モデルルームの担当者さんから言われた通り、不動産は売却した年の1月1日時点で「保有期間が5年を超えているか(長期譲渡所得)」、それとも「5年以下か(短期譲渡所得)」で税率が異なります。
- 5年以下(短期): 税率 約40%
- 5年超(長期): 税率 約20%
我が家はきっちり5年を過ぎるのを待ってから手続きを行ったため、売却益にかかる税金を半分に抑えることができました。
② 過去の「15年償却」の裏返しと、非業務用への切り替え
[前編]で、毎年の所得税を抑えるために「専有部設備を15年で減価償却した」とお話ししました。
運用中は経費が増えて助かったのですが、売却の段階になってその裏返しがやってきます。設備を早く償却した分、マンションの帳簿上の価値(簿価)が大幅に下がっていたため、計算上の「売却益(売った価格-帳簿の価格)」がその分大きく膨らんでしまったのです。
なお、退去から売却までの期間については、少しでも簿価の低下を抑えるため、賃貸用(業務用)から自己所有(非業務用)へと切り替えを行いました。非業務用にすることで、耐用年数が1.5倍(建物本体であれば47年→70年)へと引き延ばされ、減価償却を緩やかにする工夫も行いました。
③ 税務署でのやり取りと、住民票の重み
最後の確定申告の際、書類を確認してくれた税務署の担当者さんとの間で、こんなやり取りがありました。
書類を見ながら、担当者さんが「もしこの期間、ご自身で少しでも住まわれていたのなら、マイホーム売却の特例(3000万円特別控除など)が使えて、税金がもっと安くなりますよ」と提案してくれたのです。
私が「実は事情があって住民票を移していないんです」と伝えると、その担当者さんは「何か救済措置がないか」と、わざわざ上司の方にまで確認しに行ってくれました。
最終的には、やはり「住民票を移していない(居住の実態が証明できない)」ということで適用は不可という結論になりましたが、税務署の方の対応には感謝しています。それと同時に、「不動産の税務において、住民票(居住実態)の有無がいかに重要か」を実感した経験となりました。
④ 利益が出たからこその納税
最終的には特例は使えず、それなりの額の譲渡所得税を納めることになりました。
正直、色々調べて工夫して確定申告をしてきた分、「もったいないな」という気持ちがなかったわけではありません。
ですが、新築時の購入価格が3,000万円台前半だったのに対し、売却価格は4,000万円台半ば。「これだけ利益を出せたからこそ、しっかり税金が払えるんだ」と、先輩から聞いていた言葉の通り、納得して割り切ることができました。
初めての確定申告(青色申告)から始まった一連の税務の手続きは、大家さん・売り手としての義務をきっちり果たし、このタワマン投資を一つの区切りとして完結させることができました。
おわりに:【前編・後編】を通したトータル収支のまとめ
諸事情による手付放棄の危機から始まった、私の初めての新築タワマン投資。 4年半の賃貸運用と、その後の売却を経て、トータルの収支はどうなったのか、最後にまとめてみます。
- 購入価格: 3,000万円台前半
- 4年半の賃貸利益: 約+750万円(家賃収入約918万円から管理費・仲介手数料・エアコン代等を引いた概算)
- 売却価格: 4,000万円台半ば(新築時より値上がり)
初期費用や毎年の所得税、売却時の譲渡所得税、そして仲介手数料などを差し引いても、トータルではプラスの収支で終えることができました。
一時は「手付金を諦めるしかないか」と考えた物件でしたが、販売会社の提案に耳を傾け、エアコン1台の工夫から始まり、Excelマクロでの青色申告、そして最後は不動産会社の強みを活かした売却へと繋げたことで、資産としてだけでなく、不動産実務の経験という財産を得ることができました。
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